【短編】もし風見鶏が振り向いたならこの世界は違って見えるのだろうか？

夢？それともーーー

平日の午後と言っても車内はそこそこ混んでいて僕と万由利は何とか新快速の二人席に座ることが出来た。

窓側の座席に座った万由利(まゆり)は早速、スマホを取り出し、その繊細且つ綺麗な指先を画面上に滑らせていた。

僕はデジカメを取り出すと今日撮った異人館の画像を一人チェックし始めた。

やはり、一番のお気に入りはーーー

風見鶏の館だ。

あの赤茶色した煉瓦造りがなんとも言えない暖かみを出していて幾層からなる寄棟造(よせむねづく)りはまるで遠い異国の城のよう。

ドイツ人である主はこの佇まいに祖国のあの有名な城を感じていたのだろうか？

そして、その一番高い位置にある急勾配の塔屋(とうや)の上に

風見鶏。

目を閉じるとスーっと真っ直ぐ天に向けて伸びる支柱につけられた風見鶏が、品よく清ましている姿が浮かぶ。

あの建物は風見鶏があってこそ完成なのだ。

僕はそう思う。

そのまま余韻に浸りながら疲れもありうとうとと瞼を閉じていると。

すると、

「ねぇ、起きてくださいな。そこの貴方、起きてくださいな。」

突如、聞こえた声に驚いて目を開けると、そこは風見鶏の館前の広場だった。