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もう……と、抱きかかえられ、咥えていたスリッパを慎一に取り上げられた。
「母さんが来るっていうから新しいの買ったのに、これじゃ台無しじゃんか」
スリッパの先端は、既に私のヨダレで湿っている。
慎一が手で拭おうとしても、柔らかい繊維に絡まって取れない。
なんだ、そうだったんですか?
お母さんが来るのなら、それは申し訳ないことをしたな……と、私は少しだけ反省した。
慎一の実家は茨城県にある。
約四時間かけて東北の地に訪れてくることを考えると、家に来て汚れたスリッパを履かせるのはあんまりだ。
それならそうと、早く言ってくださいよ。
知っていたら、イタズラなんかしなかったのに。
……多分ですが。
ペコリと頭を下げて、慎一の手の甲を舐めた。
これで彼の機嫌は直ります。
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