第一話 『万引きG犬』

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もう……と、抱きかかえられ、咥えていたスリッパを慎一に取り上げられた。 「母さんが来るっていうから新しいの買ったのに、これじゃ台無しじゃんか」 スリッパの先端は、既に私のヨダレで湿っている。 慎一が手で拭おうとしても、柔らかい繊維に絡まって取れない。 なんだ、そうだったんですか? お母さんが来るのなら、それは申し訳ないことをしたな……と、私は少しだけ反省した。 慎一の実家は茨城県にある。 約四時間かけて東北の地に訪れてくることを考えると、家に来て汚れたスリッパを履かせるのはあんまりだ。 それならそうと、早く言ってくださいよ。 知っていたら、イタズラなんかしなかったのに。 ……多分ですが。 ペコリと頭を下げて、慎一の手の甲を舐めた。 これで彼の機嫌は直ります。 .
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