第一話 『万引きG犬』

27/82
前へ
/85ページ
次へ
猪俣がマークしている女性は、まさにそんな特徴が当てはまっていた。 棚を見ずに、目は通路に向いている。 女性の買い物カゴには、白いパックが二つ入っていた。 ただ、中身は何だかわからない。 表面を拝むように重ねていて、何のパックだか見えないようにする『拝みパック』になっているのだ。 この『拝みパック』は、万引き犯の特徴の中でも特に強い。 隠そうとする心理が働かない限り、普通はラップが擦れるようにパックを重ねたりはしないもの。 問題は、いつ買い物カゴから白いパックを出すか……だ。 その女性は肩から大きめのトートバッグを下げている。 やるとすれば、そのバッグに白いパックを移すはず。 猪俣は、その瞬間を見逃すまいとしているのだ。 私も思わず息を呑む。 すると、一定の距離を保っていた猪俣が、その女性にゆっくりと近付いていった。 .
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

384人が本棚に入れています
本棚に追加