第一話 『万引きG犬』

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犯罪は許せないが、未然に防ぐなり止めさせることも時と場合によっては必要になってくる。 一番は、『何事もない』に尽きるのだから。 どうか、万引きしませんように…… 目頭に力を込めて一部始終を眺めていると、その女性は突然買い物カゴを地面に置いた。 肩に掛けているバッグを持ち直し、辺りに目を配っている。 猪俣は、棚を挟んだ反対側の隙間から、身を屈めるようにして女性の手元をしっかりと見ていた。 いよいよか……と、思った次の瞬間。 女性は買い物カゴを地面に置いたまま、手をつける事なく真っ直ぐ出口へと歩いていき、そのまま外へと出てしまった。 猪俣はすかさず置かれた買い物カゴを確認するが、結局は何も盗られていなかったのか、その女性を追いかける素振りは見せない。 呆然と眺めながら、肩を落としてため息を吐いていた。 私の念が通じたのか、それとも猪俣の視線に気付いたのか……はたまた、最初から万引き犯ではなかったのか。 それはよくわかりませんが、どうやら事件は起きずに済んだようです。 .
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