第一話 『万引きG犬』

2/82
前へ
/85ページ
次へ
       <1> 石森交番の戸を開いて外に出ると、どこからともなくキンモクセイの香りが漂ってきた。 乾いた空気に秋の風が横切っている。 予想以上の冷たい風に、僕は襟を立たせて首をすくめた。 交番脇に停めてある自転車に跨がり、渋々と現場を目指す。 通報があったのは、ここから十分ほどの距離にあるスーパー『クスヤ』。 手作りの惣菜や日替わりの特売品が豊富で、地元民から愛されている中型のお店だ。 どうやら万引きがあったらしい。 相手は石森高校の女子生徒と聞いている。 犯行を認めず、保護者や学校への連絡を拒否しているため、110番通報をしてきたようだ。 まぁ、よくある話だった。 クスヤに限っての事ではなく、『店員の話し方が悪い』など、対応について逆ギレして揉めるケースも多々ある。 一体どちらが悪いのか……と、言いたいところだが。 恐らく今回も、その手の類いだろうと僕は踏んでいた。 .
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

383人が本棚に入れています
本棚に追加