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「そうは言っても、実際にこうして君のバッグから出てきてるじゃないか」
そう言って、河野はデスクの上に置かれた物を指で叩く。
透明の箱に入ったベージュのマニキュアだ。
「知らないわよ。勝手に入ってたんだってば」
「勝手に入る訳ないでしょ? このマニキュアはね、きちんと仕切りがついた棚に陳列してるんだ。手を伸ばさない限りは絶対に取れない」
それにね……と、河野は振り返り、背後に立つ女性に目を向けた。
「君たちがおかしな行動をしていたのをうちの者が見てるんだ……ねぇ、猪俣さん?」
『猪俣』と呼ばれた女性は静かに頷いた。
見た目は二十代半ば。
ショートカットで、やや吊り上がったキツネ目に真っ直ぐ引かれた眉ライン。
偏見ではあるが、どことなく気が強そうに見える。
もっとも……
店内の防犯に目を光らせる『万引きGメン』という職種が、彼女をそういう風に見せているのかも知れない。
その猪俣の話によれば、一連の流れはこうだった。
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