第一話 『万引きG犬』

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「そうは言っても、実際にこうして君のバッグから出てきてるじゃないか」 そう言って、河野はデスクの上に置かれた物を指で叩く。 透明の箱に入ったベージュのマニキュアだ。 「知らないわよ。勝手に入ってたんだってば」 「勝手に入る訳ないでしょ? このマニキュアはね、きちんと仕切りがついた棚に陳列してるんだ。手を伸ばさない限りは絶対に取れない」 それにね……と、河野は振り返り、背後に立つ女性に目を向けた。 「君たちがおかしな行動をしていたのをうちの者が見てるんだ……ねぇ、猪俣(いのまた)さん?」 『猪俣』と呼ばれた女性は静かに頷いた。 見た目は二十代半ば。 ショートカットで、やや吊り上がったキツネ目に真っ直ぐ引かれた眉ライン。 偏見ではあるが、どことなく気が強そうに見える。 もっとも…… 店内の防犯に目を光らせる『万引きGメン』という職種が、彼女をそういう風に見せているのかも知れない。 その猪俣の話によれば、一連の流れはこうだった。 .
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