試乗車

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「そういえば、後部座席の人って誰なんですか? てっきり試乗の際の案内役かと思ってたんですけど、車の説明もしなければ道案内もしないし…。こう言ったらアレですけど、乱暴な運転をしないかどうかを見張る人、とかですか?」  そう話すなり、店主が真っ青な顔になった。  その慌てふためきっぷりが気になり、つい追及口調で厳しく問うと、店主は、実は今の車が事故車であることを語り出した。  事故といっても車が大破するようなものじゃない。ほんの少し通行人と接触した程度のものだ。でも相手の打ち所が悪かったらしく、車に損傷はまるでないが、被害者の方は数日後に亡くなってしまったという。  それ以降、この車に誰かが乗ると、後部座席に見知らぬ女性がいて、走っている間中無言で運転手を見ているとか。  この話で俺の購入意欲はあっさり流れた。  その後、一年くらいポンコツの愛車に乗り続けた末、俺はようやく新しい車を購入した。  あの時の車程馴染む感じはないけれど、まあそれなり快適な新車ライフを過ごしている。  ちなみに、最近になってあの店の噂を耳にしたのだが、俺が買いかけたあの事故車は今は廃車になってしまったという。  車に憑りついていた女の幽霊はどうなったんだろう。さすがに成仏したのかな。  俺にはまるで関係のない話だけれど、あの時試乗したあの車とまったく同じ車を見かけると、今でもあの日のことを思い出す。 試乗車…完
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