晩餐

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 そして官能歯科医院にはもう一人、鮫島某という青年が勤務しているのだが、これがまた見かけによらず院長以上の曲者で、三日に一度は栗花落のぼろアパートに乗り込んでは困惑する栗花落を組み敷いて腰を振ったり、己の内部に栗花落の陰茎を潜り込ませたりしているのだから侮れない。それも、官能医師と鮫島との間にも体の繋がりがあるようだし、そして栗花落と鮫島の関係を官能自身も諾了しているようだし、なんとも爛れた絵図が出来上がっている。巷で言うところの、三角関係だ。  ひどく冷え切った、互いが互いに無関心の三角関係。爛れている。性の飽食は終わらない。たとえ夏が死んだとしても、春が生まれようとしても。          *   *   *       「栗花落さん、ちょっと歯を磨きすぎですね」  マスクを人差し指でくいと下げ、能面のように冷たい顔をした官能医師が言い放つ。ニコリともしない表情のせいか、なんでもない忠告のはずなのに妙に責められているような気になる。動作も機敏で、委縮する栗花落になど目もくれず返答も聞かず、奥歯のレントゲンを持ったまま奥へと消えてしまった。  ユニットチェアに取り残されたままなすすべもなく、ひとまず体を起こして口をゆすいだ。水に薄く溶けたマウスウォッシュがいつまでも舌に残った。 「先生は、ああ見えて潤くんのことを気に入っているんだよ」  こちらもこちらで手持無沙汰に器具を磨いていた鮫島がフォローするように笑った。ずいぶん親しげに栗花落を下の名前で呼ぶが、栗花落は彼の姓しか知らぬ。まるで弱みを握られているようで、少し気に食わない。 「そうですかね。俺には、よく分かりませんが」     
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