晩餐

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 きらいではない。こういうのは、きらいではない。  だけれど、頬を伝う涙は一体どういうことなんだろう。むわっと香る精液を洗い流そうとするかのように、涙がぽたぽたと零れて止められなかった。花崎はそれを怪訝そうに見下ろしながら、ひとつ、ため息を吐く。  嗚咽する栗花落に手を伸ばしかけ、やめた。行き場を失った手で頭を掻き、すっかり冷めきってしまった鍋を見やる。深々と降り積もる、珍しい雪と泣きじゃくる青年を前にして花崎は途方に暮れていた。  それこそ、新緑の美術館でフランシス・ベーコンの絵を前にした時と同じ種類の困惑だった。     
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