九夏

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九夏

 人の性癖というものは、多種多様でまさに混沌。悪辣なものから常識の範囲内のものまで秋の空のごとき移ろいを見せる。一人の人間につき数種の性癖を持っているのかと思えば、複雑怪奇なまでに一種を極める猛者まで存在している。  様々な変態性癖を極め尽くし、最終的に栗花落(つゆり)が辿り着いたものは“抜歯”だった。  なぜこれほどまでに、抜歯というおぞましく悪辣な性癖に傾倒していったのかはおいおい紐解くとして、まずは過去の性癖をかいつまんで紹介したいと思う。     今でこそ恥辱に身を焦がし、涙と鼻水を垂らしながら官能の夜を飲み干してはいるが、栗花落は元来いたって一般的な性欲求しか持っていなかった。シャワーの水圧をひたすら股間へと集中させた事はしばしばあったが、そこまでだ。ウォッシュレットは便利だと思いこそはしたが、それが何か後ろめたい悪癖を産んだりはしなかった。極めて一般的だ。このまま何の性的弊害もなく一生を終えるのだと思っていたが、安寧であるべき未来が一人の男によって粉々に粉砕されてしまったことをここに告白したい。     
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