穢れ

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穢れ

 あの日から、頭の中まで湿気ってしまったような気がする。いつまで経ってもびしょ濡れのまま、銭湯に取り残されているような心地で、栗花落は目の前のコロッケをただ茫然と見つめていた。  田舎からの仕送りで生活をしているいま、贅沢はできない。元より、食に頓着しない性格だ。目の前の皿に同じステーキを出され、高い肉と説明されれば美味いと感じるし、安いぼろ肉だと言われれば、なんとなく美味しくないかな、と感じてしまうような、そんな鈍感な感性と舌を持っている。とりあえず腹が膨れればなんでもいいと、ほぼ毎日、同じ店の同じコロッケを買い、それと米だけを無心に食べている。  今日も、昨日と一昨日と同じコロッケを前にして、冷や飯のよそってある茶碗を左手に持っているのだが、いまいち右手で箸を取る気にならない。食欲が、まるで無いのだ。 (ああ、ちがうな。昨日は、コロッケじゃなくて、メンチカツだった)  奮発した記憶を思い出し、頭の中で誰にするわけでもなく弁解する。  昨日までは、ふつうに食欲はあった。珍しくコンビニでホイップが乗ったプリンを買って、食後に楽しんだ。     
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