ある日の路上

8/9
前へ
/12ページ
次へ
歌っている間、加奈子を見ることはなかった。 歌だけで想いを伝えるんだ、離れてた間の全てを。 歌い終わると大きな拍手が歓迎してくれた。 照れながら、周りを見渡す、加奈子はノートを手に持ち何かを書いている。 最後まで聞いてくれたんだとホッとして、ギターを置く。 「おー!凄く集まったんだね。snsってやっぱり凄いなー」 先程の女子高生がまた来てくれていた。 「え?君が集めてくれたの?」 「ちょっとTwitterとフェイスブックでね、学校の子が来てくれたみたいだね」 それで、やたら学生服が多かったんだ。 「でも、それだけだよ他のお客さんはお兄さんの力!いい歌じゃなきゃ立ち止まってくれないじゃん」 「ありがとう」 普段よりお客さんがいて少しはカッコつけれたかなと感謝して、もう一度加奈子のほうを見る。 聞きに来てくれてありがとうと声をかけようと思ったんだ。 でも、ノートは違う人の手の中に。彼女は駅に歩き出している後ろ姿だった。 足取りは軽く、振り返る素振りも見せず。 そして彼女はだんだん小さくなり人混みに消えていった。 「何よ何よあの女の人じっと見つめちゃって」 女子高生の言葉で我に戻る。 ギターケースに戻ってきたノートに気づき、先程の加奈子が書いていた部分を探す。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加