プロローグ

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  学生の頃は何とか普通だった。   時々、空気のような……そこに存在しない者   のような扱いはされても、小突かれたり、   いきなり背後から蹴っ飛ばされたりはしなかったし   モノ(自分の所持品)を隠されたり、   給食の中へ変な物を入れられる事もなかった。   それが ――   社会へ出てから、ガラリと変わった。   数人の女子が高笑いながら、廊下を走り去って行く   足音。   ドアの外にはもう誰もいないと、気配で分かっては   いても、しばらく様子を伺ってからそうっとドアを   開けた。   トイレの個室から出てきた私は、いつもの如く   びしゃびしゃのずぶ濡れ。   私がトイレに入っている時、さっき走り去って   行った女子達が個室の戸口上からバケツ2~3杯分   くらいの水をぶち撒けてくれたからだ。   こういった嫌がらせ・イジメの実行犯はその都度   入れ替わるが、命令するのは決まっていて。   先輩社員の中でもダントツ女王様的存在の秘書課   勤務、西園寺由莉奈。   父親がこの会社の大株主の重役だからといって、   幅を利かせている典型的な猫っ被り女子。   上司や自分が好意を持っている男性の前では   決して殊勝な態度を崩さないが。   彼女にとって同性は全て敵、または下僕らしく、   あらゆる部署に下僕ネットワークを張り巡らせ、   それらの下僕を使用人の如くコキ使い、   私のような下僕以下の女子へ小学生並みの   嫌がらせを繰り返す。   中高生のイジメっ子やいじめられっ子ならまだしも   こんないい大人になってからのソレは、   恥ずかしくて目も当てられない。   特に、虐められる側は、ただただ自分が惨めで   情けなくて、時々本当に死にたくなる。   そこまで嫌なら、転職してしまえば ―― という   選択肢もあるだろうが、私の場合そうもいかない。   私は4年前の東日本大震災で祖父母・父・兄・   弟・兄嫁・甥・姪―― 母以外の家族全員失った。   あの津波が家を襲った時、たまたま私と母は、   当時母が家政婦の仕事をしていた”九条様”   という、地元では名家のお屋敷へ行っていた   ので九死に一生を得た。   九条様のお屋敷は、内陸の高台にあったので   幸い津波の難からは逃れられたのだ。
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