01 オーバーチュア / 麻生聖side

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『ギャラは俺のポケットマネーから弾むから』と秀野に言われ、バカにされた気がしたことまで思い出す。 ーー ああぁぁぁぁ!もーやだっ!!俺は真っ当に仕事に打ち込みたいだけなんだよ!!  齢三十にして持っているものすべてゼロになり、先のないバイト生活を変えようと思えば選択肢は他にない。テレビ資本のアイドル映画でも。 「俺が吹き込んだセリフ、ちゃんと聞いてる?」  主演俳優に対するスタッフの適切な口のきき方ではなかったが、どうでもよくなった。 「……一応…」 ーー 一応、じゃねー!!!百回聞け!!それでも足りない。USBメモリ壊れるまで再生しろ!!  頬の筋肉が勝手に震えるのを感じながら、麻生は運転に集中するよういつもよりハンドルを丁寧に握る。 「東京での稽古はどうだった?役掴めてきてる?」 「…なんとなく?」  なんでそこ疑問形なんだよと、ぐったり力が抜けそうになる。 「……ま、クランクインまでやれることをやっていこう。この映画は島の雰囲気が重要な演出になってるから、一週間島で生活したら土地に対する感じ方も変わってきて、それだけでも多少演技が違ってくる。目立つなって言われてるんなら、映画にとことん紛れこめ。外した台詞ひとつで、観客は案外気づくよ、こいつ下手くそだって」 「アイドルの演技に、はなから誰も期待してないでしょ」  思わず漏れた本音に、眉ひとつ動かさずしれっとした顔で返された。 ーー お前が言うか!!!てか、自分でアイドルっつー歳か!!!仕事だよ、仕事!嫌味くらいしおらしい顔で聞けよ! 「麻生さん、ただの方言指導なのに随分口だしますね」  あまりの尊大な口の聞き方に、麻生は自分の耳を疑った。車窓の向こうに広がるぼんやりとした田舎の風景とのギャップに失礼な言葉の意図を掴みかねる。 「はぁっ?俺は秀野さんに頼まれたんだよ。一週間でお前の演技を何とかしろって」 「あー、なるほど。随分信用されてるんだ、秀野さんに」 「お前が信用されてないんだよ!」  我慢も限界で、思わず吐き出してしまった乱暴な言葉に軽い後悔を覚えた瞬間、手塚は初めて表情を変え、くすりと笑った。  涼しげな薄い二重の切れ長の目が緩やかに弧を描く。くすみのない唇の端がわずかに上がったところに焦点が合った。
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