01 オーバーチュア / 麻生聖side

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「まー、そうですよね。このアイドルごときがってみんな思ってるんでしょうから。麻生さんもそんな表面繕わないでいいのに。本心みえみえだから」  言い返す言葉を考える間も無く、後ろからクラクションの音が響く。信号はとっくに青になっていた。    交通事故を起こすんじゃないかと思うほど適当な運転で手塚をホテルに送り届けた後、今日の仕事が終わっていないことに唸った。  この後車を実家に返して、地元スタッフと懇親会という名の飲み会がある。自分なりに考えた手塚を方言の台詞に慣れさせるためのアイデアだったが、今となっては死ぬほど面倒臭い。  経費で落としてやれと、投げやりな気分で車をホテル近くの駐車場に入れた。手塚を迎えに行くまで時間ができて、どこに行こうかとあたりの店に頭を巡らせた瞬間、ボトムスのポケットに入れたスマホが震えた。 「どぉー、聖?よっしーと仲良くやってる?」  三十過ぎて、この人を食ったような喋り方、全くこの人は…と、必要以上に快活な秀野の声にどっと疲れが増し、怒りさえ覚える。 「秀野さん、なんか俺、嵌められた気分なんですけど。何であいつが主役なんですか?」     
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