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「…クビって、この映画だけが理由って訳じゃないでしょう。実績の結果。自業自得ですよ」
「俺の映画がコケると思ってんのかよ?ひでーなお前。冗談じゃねー」
どこまで本気なのだかわらかない、ふざけた調子で騒ぎ立てた後、急に声のトーンを変える。
「撮影の一週間前に現地に入れたら、お前何する?あいつにお前が教えられること、教えてやってよ。それだけでいいから。それだけで、贅沢な時間になるから」
神妙に響く声色で言われたが、相手は俳優なのだから雰囲気にのまれてはいけない。信用ならない。
これから打ち合わせだからと向こうから唐突に通話を切られた。本当に三十路かよと、出会った時から変わらない秀野らしさに、ほっとしたのか呆れたのか。すぐにそれ以上に秀野の声に、喋り方に、あっという間に馴染んでいた自分自身に呆れた。
もうずっと、まともに会話をしていなかったのに。することもないと思っていたのに。
ただ、あの頃語った青臭い夢のようなものに近づいたのかはわからないが、秀野が自分よりもずっとずっと先を歩いていることは明らかだ。
駐車場の端にある自販機でペットボトルの水を買った後、すぐに手塚の名前をスマホで検索をかける。
グループ名『シャイニング・フューチャー』略して『SF』。あまりにもなネーミングに思わず吹いて、久しぶりに本気で笑った。
『シャイニング・フューチャー 手塚』
イメージ検索に切り替えると、飛び込んできた金髪に近い明るい髪色に目を囚われる。本読みの時はすでに気にすることもないほどナチュラルに落ち着いていて、こざっぱりと短めに整えられていた。写真ではキラキラした髪がもっと長い上に前髪がうっとおしい。
ーー チャラっ!!!なんで顔にばさばさ髪かかってんの??!!
毒づいた以上に驚くべく、これが今日一日ほとんど表情筋を動かさなかったやつと同一人物かと疑うような顔が、そこにはあった。
分かりやすく甘ったるい笑顔、色気を滲ませ挑発するような強い視線、狙ったのであろうが、てらいのないリラックスした優しい表情。
知らない顔をする手塚がスクロールダウンに合わせて次々スマホの画面に現れる。麻生はその指を止めることができない。
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