02 一日目 / 手塚佳純side

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 新鮮な魚がたっぷり乗せられた海鮮丼を言葉少なに食べ終えると、突然、手塚、と名前を呼ばれた。 「昨日言ったこと、ひとつだけ謝りたい」 「は?」  思わぬ言葉に堪らず尖った声が漏れ、向かいに座っている麻生の顔を見る。初めてちゃんと目があった気がした。  少し薄い色の瞳のせいで、繊細というか神経質そうに見えるのかもしれない。海育ちと聞くとイメージする、大らかで健康的な男とは麻生は全く重ならない。全く女っぽくはないけれどどこか中性的な印象を受ける。 「『手塚が信用されてない』って言ったこと」 「え…?いや、実際そうだろうし、別にどうでもいいし」  本当にそのことには腹を立てていない。表向きには一週間仲良くやりましょうと言いながら、どうしてお前が主役なんだよと微細にいやらしいやり方で、同時に存在全部で伝えられることに苛立った。 「主役を任せられるって総合的に見て判断したから、決まったことだよ。誰でもできることじゃない。秀野さんだって期待してる。勝手なこと言って悪かった」  謝って欲しかったわけではなく、的外れなことを言い出す麻生に驚いた。  全く思考回路が理解できない。やっぱりアンバランスだ。そう思いながら、なんと返事するか考えるのを諦め、窓の向こうの眩しい海をぼんやり眺めた。  ふと気づく。この人は、秀野の立場を悪くしないために態度を変えたんじゃないかと。もしかしてふたりは特別な関係なのかもしれない。ゲイである手塚がこういう勘がした時は大抵間違っていない。 「あ、つまり、麻生さんは俺を信用してない、っつーことですね」  他人の事情など面倒臭くなって、投げやりな調子で言った。 「お前の演技力はな。一週間やそこらでなんとかするとか絶対無理だから。浮かないくらいになればいい。『アイドルごときが』って言われない結果出せよ」 「はーい、尽力しまぁす」  適当に返事すると、麻生はあからさまに小さなため息をついた。
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