01 オーバーチュア / 麻生聖side

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 目の端にちらちらとオレンジ色の光が霞む。このカーブを越えればすぐにトンネルの出口が見えることは知っている。その出口を抜けると目的地である空港に到着することも。  慣れない車のハンドルを軽く握り直し、もう何度目かというほど未練がましく『やっぱりこの仕事受けなければ良かった』と麻生聖(あそう ひじり)は胸の中で呟いた。  エアコンが効きすぎていると思ってさっき緩めたばかりなのに、もう車内の空気を重たく感じる。同じようにこれから会う相手のことを考え、気持ちもじっとり重量を増したように感じた。夏の日差しが眩しい光の中に飛び出すと、もうそこには空港に繋がる立体スロープが見えた。  小さな地方都市の空港は、エントランス目の前が駐車場で、車を停めるとロビーまでそれほど時間はかからない。軽く背中に汗が浮かんだのを感じながら麻生は車寄せターミナルを横切り、白い建物に向かって歩いた。自動ドアが左右に開くことさえ余計なことのように思えるから重症だ。  生真面目な性格柄、仕事の時間には一度も遅れたことがないというのに、飛行機の到着時刻はすでに数分過ぎていた。 「手塚くん?」 「あ、はぁ」     
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