02 一日目 / 手塚佳純side

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『アイドルごときが』そう言われるアイドルを本気でやろうと思ったら、素質も努力も並大抵なく求められることを知ってしまっている。  元々、手塚はアイドル志望ではない。将来はダンスで食べていけたらいいなと、小学校に入ったばかりの頃に始めたダンススクール通いをずっと続けていた。同時に無理かもなとあっさり諦めてもいて、周囲に流されるまま大学に進学した。  特に目立つタイプでもない自分がまさか歌って踊って、テレビに出て、舞台から手を振る存在になるとは一ミリも思ってもいなかった。  手塚が所属する『シャイニング・フューチャー』は全国レベルだと一番人気の神崎史弥(かんざき ふみや)が、なんとか名前と顔が一致するくらいの知名度をもつ。学生なら二、三人知っているかもしれない。  本格的なダンスが売りで、曲もビジュアルもターゲットの中高生に分かりやすい程度に大人っぽいおしゃれ路線。てらてっらの安っぽい衣装を着せられることもなく最初ほっとした。  全体を引っ張る神崎の人懐っこい性格もあって、パフォーマンス以外ではわちゃわちゃと賑やかな仲良しグループというギャップが受けている。  シングル曲にタイアップがつくこともままあり、グループとしての売れ方は予測範囲を上回りも下回りもせず順調。  けれど手塚は五人グループの中で一番目立たない存在だ。一曲のうち手塚に振り分けられるパートは最小限で、他のメンバーとはどんどん差がついていく。  自分にはアイドルとしての器なんて、もともとない。卑屈になっているのではなく、神崎のように無条件に人を惹きつけるきらめきや、ライブなどを盛り上げ一体感を作り出す才能は特別なものだと感じる。  グループの中にいるからやっていけていることは十分自覚している。  こっちの道、あっちの道、幾つもの未来があって、今ここにいるのは運が良かっただけだ。ここは自分の居場所ではないような、サイズの合わない服を着ているような、収まりのつかない違和感を常に感じながらも全力で走ってきた。じゃないとこの世界では振り飛ばされてしまう。  常に生まれて消えていく現象がある中で、自分がこの位置にいるのは上々の結果だ。でも、先が見えない。
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