02 一日目 / 手塚佳純side

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 ちょっと個室っぽいカフェがあってさーと引っ張っていかれ、これはいけるかもとますます気分を上げたにも関わらず、話は予想もしない方向へ飛んで行った。 「俺ね、スカウトされたんだよね」 「…スカウト?読モとか?」  半個室に小さく仕切られたカフェは、あちこち小さなシャンデリアが吊るされていて、いかにも女の子が好みそうな空間だ。メニューもスイーツ系が充実している。席にはクッションがたくさん置かれ、男ふたりでこのシチュエーションは微妙だと思うのだが神崎は全く気にしていない。柑橘類が混ぜ合わされたらしい複雑な味のアイスティーを手塚は口に含んだ。 「歌って踊る系」 「ぶほっっ……はっ?もしかしてアイドル!?…ってまじで?」  思わず目を見開き、声のトーンが上がってしまった。本気で逆流しそうになった液体で、鼻がツンとする。 「アイドルっていうかダンスグループなんだけど、その辺括り曖昧だしね。俺もね、怪しいと思って調べたんだけど、普通にちゃんとした事務所だった。で、今オーディション出てんだよ。もう俺が選ばれるのは決まってて、グループの他のメンバー選考してんのね」 「で?」  大きくて黒目がちな瞳、細い鼻梁、形のいい唇。正統派の可愛い系美少年と謳っても、なかなかクレームもつかないだろう。明るいというか、賑やかというか、次々変わる豊かな表情は小動物のように愛らしい。ふわっとしたボリュームを出した髪型でも頭はちっちゃいし、背が伸びたせいでスタイルも飛び抜けてよくなった。  確かに神崎ならその辺のアイドルグループに紛れても違和感がない。それでも唐突な話に全く実感が湧かず、先を促す。 「大体メンバー固まってきてるんだけど、キャラ的にクールでダンスちゃんと踊れる人が欲しいんだって。誰か知ってるって言われてさー、俺がスクールで結構本気でダンスやってるのも言ってるから、周りで目立つやついないかって…で、で、よしくんだよねっ!」 「無理無理無理無理!」  間髪入れず返して答え、手塚は手をブンブン振った。
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