02 一日目 / 手塚佳純side

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「無理じゃない!もうねー、めちゃめちゃクールでカッコよくて、ダンスキレッキレの人知ってるって言っちゃった!」 「そんなん言われて自分から行けるかっ!」 「だって、よしくん、ダンスで食べていけたらいいなーって言ってたじゃん。チャンスだよ」 「言ったけど、だといいなー、いいけどなー、みたいなもんだよ。俺、アイドルとかいう顔じゃないし、全然無理!もう二十歳だし歳行き過ぎ」 「だからアイドルじゃなくてダンスグループだってば。即デビューじゃなくて最初は研修生で、プロ向けのレッスン、タダでバンバン受けられるんだよっ。デビューできなかったとしても美味しくない?」 「えぇー、それは魅力的だけどー。それでも無理っ!絶対無理っ!」 「お願い、よしくん!よしくんと一緒だったら絶対楽しいと思うんだ。心強いしさ。よしくんのダンス、すごいカッコよくて、俺めちゃくちゃ好き!」  目の前の神崎は手塚の手を両手で握り、すりすりと?を寄せてくる。ふにゃっとした唇が触れるほどに。こいつ俺が狙ってんのわかっててやってるんじゃないだろうなーと疑うほどに子犬のような愛らしい瞳で懇願するように見つめてくる。  自分なんて審査にも引っかかるはずがないからまぁいいかと、神崎を満足させるためだけに事務所に一緒に行く約束をした。  それから急展開して、怒涛のように日々は流れ今に至る。結局、神崎を一度も抱くことなく、仕事のランクに差がついてしまった今も兄弟みたいな関係で仲がいい。  その一方で『シャイニング・フューチャー』は最初から知名度を上げた後ソロでバラ売りするためのプロジェクトで、事務所はぱっとしない手塚を持て余している。  歌とダンスはできて当然、演技にグラビア、ラジオ、バラエティ他、手塚にはお試し的な小さな仕事が山ほどくる。休みなんて長らくもらっていない。  なにか芽が出るものはないかといろいろやらされているのだろうが、そこには戦略も何もない。手当たり次第、未知の可能性だけを期待して闇雲に飛び込んでいくだけ。  立ち止まれば何をやってもどこにも辿り着けない焦燥感に襲われる。方向性の定まらない仕事を、とりあえず目の前のものから必死にこなす。もうどちらを向いているのかさえわからない。
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