03 一日目→二日目 / 麻生聖side

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 少し車を走らせ朝市で焼きたてパンを買って帰ると、微かな自分ではない人の気配がした。手塚はすでに起きているらしい。映画のロケで合宿のような共同生活には慣れているが、家に誰かがいる感覚は久しぶりで新鮮だ。  食欲を誘う匂いを撒き散らす紙袋をテーブルに置き、ペーパードリップでコーヒーを淹れる。窓を全開にしてかつて家族が揃っていたダイニングでゆっくりと朝食をとった。海からの風が薄いカーテンを揺らしている。  いつまでたっても部屋から出てこない手塚に声もかけようか少し迷って、自分の部屋に戻り台本のページを繰った。手塚のやる気を試すような気持ちもあった。  何度も読み返し、何パターンも声に出して録音を繰り返したので台本はよれよれだ。文字のない白い部分はびっしりと書き込みで埋まり、色ごとに内容を分けた付箋がたくさん挟み込まれている。秀野がどうして今この映画を撮ろうと思ったのか、さっぱり理解できない。  高校まで過ごした島に麻生が戻ったのは、橋が渡されてから初めてのことだった。  ものすごい田舎に変わりはないけれど、観光地としてあちこち整備され多少賑やかになっている。綺麗な砂浜を敷いた人工ビーチがいくつかでき、レストランや商業施設も増えた。どの島も小綺麗にその玄関口を広げ、思ったほど閑散とはしていない。
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