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声をかけると、気の抜けるような低いトーンで目の前の男が答える。立ち上がることもなく、挨拶の一つもせず、投げやりな視線だけを寄越しながら。
ーー やっぱり断ればよかった!!
予想通り手塚佳純の印象は最悪だった。秀野悦士がどうしてこの男を選び、自分に託したのかさっぱりわからない。どこの業界にもあるしがらみというやつか、それにしてももう少しマシなやつがいただろうと、気怠い表情を隠さない手塚への不満を、胸の中で抑える。
一応芸能人であるだけあって、それなりに整った顔ですらりと長い足を組んで座る姿は地方の空港では目を引いた。ぐっと気持ちを飲み込んで、親しみを込めた声でゆっくりと手塚に話しかける。
「待たせた?思ったより道が混んでてちょっと遅れたけど」
「別に…」
ーー 別に!!そうきたか!
気を使われたいわけではないが、仕事相手に向かってその態度はないだろうと麻生はさらに憤る。
ーー どこのアイドル様ですか!?手塚佳純って名前からしてアイドルぽくないし!態度超悪いし華ないし!絶対売れない!絶対消える!今すぐ消えてしまえ!
普段よりも余程子供っぽい言葉と思考で盛大に毒を吐いた。苛立ちを自制できないことに、余計にイライラした。
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