03 一日目→二日目 / 麻生聖side

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 三つ年上で、すでに役者として生計を立てているのに、秀野は地方の高校生相手に全く目線を変えることがない。 「俺なんかぜーんぜんまだまだ。やっと名前ついたちょい役もらえるようになったばっかだしねー。でも、この仕事めちゃくちゃ好き。どこまでやれるかわかんないけど、ずっと続けたいんだ。聖も東京来いよ。絶対その方が仕事あるから」  秀野の言葉に背中を押されたようなものだった。  それでも思いきれなくて、東京に出る言い訳になる程度の大学を受験した。落ちたらどうやってでも東京に行こう、そう決めて。  映画やテレビドラマでちょこちょこ姿を見るようになっても秀野の態度は変わらず、暇さえあれば一緒に過ごした。性格が合うのか秀野といるのは心地いい。話も尽きることがない。  秀野のマンションに入り浸っていても、迷惑ではないだろうかと麻生が思ったこともないほど二人でいるのは自然だった。  秀野の紹介で麻生は事務所に所属し、芝居のレッスンを受けながら高校生の時にやったエキストラよりは多少目立つ役を無難にこなした。秀野の仕事が以前よりも増え、会う時間が減っていくにつれて、中途半端な自分が嫌になり思い切って大学を中退した。  東京の大学までやったのに…と事あるごとに言われ、両親との関係は険悪になり、もう二度と帰ってくるなとも言われた。  しばらくして突然かかってきた電話で聞いた母親の声は弱々しく、最近父親が肺を切る手術をしたのだと知らされた。 『うちの墓の場所教えとくけん、今年の夏は帰っておいでや』実家とは関わらないようにしていたけれど、そう言われて帰らないわけにはいかない。子供の頃、両親に連れられ墓参りに行ったことはあっても、思えば、そこがどこなのか知らない。  一人っ子だからある程度の覚悟はしていたが、墓守を頼まれる歳に自分がなっていたのかと気分が沈んだ。
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