03 一日目→二日目 / 麻生聖side

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 島には景色をなだらかに変えた人工ビーチだけでなく、海水浴場に指定されていない自然の浜も残っている。幾つか回って最後に足取り重く、秀野と花火をした近所の砂浜を訪れた。嫌になるくらい、何も変わっていなかった。 「暑くない?」  秀野のことをこれ以上思い出さないよう、人のいない砂浜を並んで歩く手塚に声をかける。 「暑いです。脱いでいいですか?」 「だめだろ。暑いんだったら泳いでくれば?」  投げやりな気分で適当に手塚に言った。 「このまま?」 「いいよ、行け行け。ここからだったら家近いから濡れたら一回帰ればいいし」  突然手塚が波打ち際に向かって走り始めた。徐々に歩幅を大きくするが、高い位置でキープされたフォームは崩れず綺麗で、ダンスでジャンプするときのように踊っているみたいだった。  ざばざばと数歩波に足を取られ、最後はざばんと勢いよく飛び込む。日差しを纏い、手塚の周りに飛沫がきらきら光って落ちる。  ざばんと波から顔を出し、髪をかきあげる仕草が様になっている。カッコつけやがってと思うが、純粋に振り切った雑さが似合っていると思った。  服に染み込んだ水分など気にならない様子で波打ち際に戻り、波と平行に走り始める。野生の鹿のように跳躍は正確で高く、目を奪われる。  あっと思った瞬間、手塚は今度は体を預け倒れこむように海に飲まれた。スローモーションで見ているかのように姿は波間に消え、大きなしぶきが上がる。  向こうの水平線には、光る銀の道が揺れて見えた。たった今、輝く砂を撒き散らしたみたいに。あの時と同じで、全く違う。記憶を塗り変えてしまうダイナミックさにくらくらする。  何度となく何度となく、飽きるほど見た海。何度も何度も、思い返した光景。どれにも重ならない。その中で飽きず海と戯れる男は、野生動物のように自由に見えた。
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