04 二日目 / 手塚佳純side

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運動量はそこそこだけれど、長時間炎天下に晒され体はぐったりしている。畳の上で仰向けにごろりと転がり、イヤホンを耳に差し込み目を閉じる。 すぐそこで、麻生に話しかけられている感じがする。 ほんとはこんな感じ良くないけど。感情垂れ流しのイタいやつだけど。不意に今朝の泣き顔が浮かんできて、すぐに遠くへと押しやる。 今日見た景色を思い出しながら、どこでどんな風に彼が佇んでいるのか想像する。『彼』はこちらに手を伸ばしてくる。自信なく、その手を取ってくれるのかと不安な、揺れた心で。その手に芯から甘えることができて、手を取り引き寄せられたら、どんなだろうか。 目を閉じて心地よい声を聞いていると、波にさらわれるような気がしてくる。 映画素人の手塚にとっても、ストーリーは危なげに感じた。訳ありで偶然海の家に集まった二十代半ばから後半の六人。内訳は男四人、女二人。かつては賑わっていたが、今では閑散としたビーチに客を呼び込むため、夏祭りを企画する。大人だって青春したっていいじゃない、というのがコンセプトらしい。なんだそのいい加減さは。 主演が決まって監督の秀野と会った時のことを思い出す。 「不安な話だって思ってるだろ?」 いきなり自分の演技のことを指摘されているのかと思ったら、脚本の方だった。 「だって、原案は俺なんだけどさー、みんな好き勝手言って俺の思い通りにはなんないんだぜ」 監督の立場で秀野が役者に言う言葉ではない気がするが、この行き当たりばったり的な話で自信満々だったら反対に怖い。 初対面で早々に愚痴られた。スマートな雰囲気で旬の人気俳優が子供じみた口調で言うから、笑ってしまった。十以上年下のアイドルに笑われても全く気にした様子もなく秀野は続ける。 「『大人の青春』でいきましょうって、なんか周りがもりあがっちゃってさー。瀬戸内海の情緒的な風景と合わなくない?って言ったんだけど『瀬戸内海もそれなりに撮られてますからね。新しい方向で』って言うの。もう迷走に迷走を重ねて気づいたらこうなっててさ!なんだよこんなん俺の映画じゃないよ、いち抜けたーってその時にはもう言えなくなってたし」 「じゃ、しょうがないんじゃないですか?」 「さすが『SF』のクール担当!」 「馬鹿にしてんですか?」
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