04 二日目 / 手塚佳純side

10/10

664人が本棚に入れています
本棚に追加
/199ページ
「よっしーはさ、素のままで役に合ってると思うんだよ」呼び名の訂正は無理なようなので諦めた。「一見繊細そうに見えないこともないし。ツンデレぽいとこも」 「はっ?」 「問題は真夏のライムサワーみたいにシュワっと弾けなきゃいけないとこだよね。大人の青春!俺の意向じゃないけど」 「じゃ、言われたこと無視して、自分が思うように撮ればいいんじゃないですか?」 「それができたら、今、俺ここにいないよ。はいはい、なんでもやらせてもらいますってキャラでここまできたんだから。この規模で勝手なことやったら、俺、完全仕事干されちゃうね」 秀野が言うことは解りすぎるほど理解できた。こんな話、この業界じゃいくらでもある。秀野を看板にして批判ネタでマスコミを煽り注目度を上げて、そこそこの結果を狙う。 秀野自身は定評のある役者だし、ある程度来場者数は稼ぐと見込み、期待値が低ければ思ったよりよかったという評価を得る可能性もある。 主演の選び方はじめコンセプトからテレビ寄りで、ターゲットの年齢層も低め。はなから芸術的評価は視野になく、広告と話題性で売るのが今から目に見える。 生贄は今のところ、槻山嶺奈。ぱっと出の女優がこけたところで問題にはならない。秀野は監督としては致命的でも俳優としての評価は無傷だろう。手塚は知名度が低いから、余程のことがない限り話題性がなくスルーの見込み。本当にそんなかすり傷で済むかどうか。グループ脱退の理由にもされかねない。 「仕方ないことは仕方ないとして、やってやろうぜ、よっしー」 「だから、やめてくださいって、よっしーって」 「この業界の垢にいじり倒された映画を、めちゃくちゃ面白かったって言わせてやる。カンヌ目指すぞ!だから、よっしー頑張って!」 「他人頼みかよ!」 どこまでふざけているのかわからない秀野に、構わずタメ口で返してしまった。秀野は咎めることもなく、にやにや笑っている。やっぱりこの人、怖い…そう思って、掴みきれない男の顔を見ていた。
/199ページ

最初のコメントを投稿しよう!

664人が本棚に入れています
本棚に追加