05 二日目→三日目 / 麻生聖side

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防波堤を走って、その端から思い切りよく飛び込むのは小学生の頃からの定番の遊びだった。 小さな頃は見えない海の底に怯えたし、潮の満ち引きをある程度理解すると浅くて怪我をするのではないかと慎重になった。その時期を超えてコツがつかめてしまえば、安全な水位と場所を覚え、同級生たちと声をあげて飛び込むのが普通になる。 宙に浮いた後、ざぶんと海水に引き込まれる感覚は、単純な割に何度やっても飽きず、我も我もと飛び込んだ。少し前までは、羨ましいと思いながら踏み切れないで、勢いよく防波堤を蹴る上級生たちを眺めているばかりだったのに。 高校生になって海で遊ぶ頻度は減ったけれど、やることは変わらなかった。泳いで、友達を水面に向かって突き飛ばして、飛び込んで。 藍色に侵食される海が、さぁっと染み込むような波の音を響かせる。砂浜に直に座って海をぼんやり眺めながら、手塚の美しい跳躍を思い出していた。 向かってくる波を足で蹴り上げ、水際を走っては飛び込む。逆光になっている夕焼け前の光を纏い、飛沫を上げてキラキラと撒き散らす。 昔見慣れた勢いある飛び込みよりも、水泳に自信のある泳ぎよりも、手塚の水際の戯れはまるでひとつの舞台を見ているかのようで、惹きつけるものがあった。あれがアイドルというものなのだろうか。 体の細かいパーツ全てに神経が行き届いている動き。今、というときのタイミング。制御されているようで、力ませなダイナミズム。 麻生には、他の人と何が違っているのかわからない。いつもふてぶてしい手塚が思いきり走り回って泳ぐ姿に、いつの間にか嫉妬と羨望の視線を向けていた。上級生の飛び込みを眺めていた頃のように。
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