05 二日目→三日目 / 麻生聖side

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『何か』がきっとあるのだろう。演技に期待できないなら、それを被写体として活かせばいい。 『アイドルごとき』などと言っておきながら、何も知らなかった。軽薄なイメージだけを先行させて、知ろうともしなかった。演技を少し見ただけで、なんの期待もしなかった。 本読みや演技を見るだけなら東京でもできたはずだ。むしろ自分よりも経験を積んだボイストレーナーや演技指導者がいくらでもいる。秀野が手塚を自分に任せたのは土地に馴染ませるためだと思っていたが、それ以上の成果を期待しているのかもしれない。 『麻生さんが、この役やればよかったのにね』と手塚から嫌味を言われて『ほんとにな!やれてればな!やりたくもないけどな!』と、心の中で吐き捨てた。 確かにこの役をうまくやるというイメージは難しくなかった。自分ならこう演じるのに、こんな風に役を理解するのに、自分がやる方が絶対にしっくりくる、そんなことばかり考えていた。 違う。この役を演じるのは手塚なのだと、今更ながら実感する。 手塚の魅力を映し出すような役にすればいい。そのために何か手助けができればいい。それが今回受けた仕事だし、短期間で今自分ができることなんて限られているんだから。 すっかりあたりが暗くなってしまうまで、麻生は徒然に考えていた。 撮影開始まで、あと五日。
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