05 二日目→三日目 / 麻生聖side

4/14

664人が本棚に入れています
本棚に追加
/199ページ
家に戻ると、先に帰っているはずの手塚の姿がなかった。ノックの後返事がないので、悪いと思いながらも扉を開けてみても誰もいない。つい、トイレと風呂場まで覗いてしまった。 本読みを見てやろうと思ったのに出鼻をくじかれた気分だ。麻生は、戻ったら声をかけるよう付箋に書いてバンっと乱暴にドアに貼った。 予定がなくなったのでシャワーで汗を流し、携帯でシャイニング・フューチャーのライブを検索する。違法アップロードされた映像が山ほど出てきた。一応表現をする仕事に携わっていることもあり違法のものに手を出すのは気は進まないが、とりあえず再生させる。 事務所でライブDVDも借りておけばよかったが、まさか自分が積極的にライブを見ようと思うなんて予想もしなかったので仕方がない。 曲が始まった途端、あまりのキャッチーさに吹き出してしまう。歌詞も耳障りの良い綺麗な言葉ばかり並べられていて、するすると入ってくるけれど、いざ意味を考えようとすると全然わからない。 金髪のチャラ男版手塚が踊って歌っている。しれっとした顔しか見せない手塚が、まさかアイドル。対面初日には、アイドルが役者すんなよ…と、全く逆方向に毒づいたことを思い出して苦々しく小さく笑った。 何人いるのかわからないし、全員似たような見た目だけれど、さすがに本人に会っているだけに、手塚がちらっとでも画面に映ればすぐに気づく。 他のメンバーに比べ、映る時間が圧倒的に短い。ボーカルが歌うと必ず寄りのカットが入るから、単純に歌のパートが少ない手塚のカットは少なくなるようだ。 全員が揃うダンスでは、全く引けを取らない華やかさがあるのに、注目されないのはもったいないなと思う。歌に関しても、すごく上手くはないが少し低めの声は悪くない。麻生の声は聞き取りやすく耳馴染みはいいけれど特徴がないとよく言われた。独特な響きがある手塚の歌い方は、万人受けはしなくても印象に残る。 麻生には全員のレベルは横並びに見えるのに、映像ではメインとサブと言えるほどの扱いの差がある。 役者でも同じ面はあるけれど、人気商売は大変だなと思い『この役を失敗したらグループから手塚は切られる』という、嫌なことを思い出してしまった。 気づけば、次々ライブ映像を再生させていた。
/199ページ

最初のコメントを投稿しよう!

664人が本棚に入れています
本棚に追加