05 二日目→三日目 / 麻生聖side

5/14
前へ
/199ページ
次へ
ライブ演出にお金がかかっているのにも驚いた。動員数もそれなりにありそうだし『SF』は売れているグループに入るようだ。 派手なレーザーと打ち上げられる花火に照らされ、熱狂するファンは宗教に心酔しきっているように見える。どうしてこの手の振り方、ちゃんと左右揃ってるんだろう…どうでもいいことだが気になる。 怖い……初めてアイドルのコンサートというものを見て、麻生は衝撃を覚えた。 これだけ多くの人の感情を飲み込んで、ただこの瞬間に、どこまでも遠くへ引っ張っていくパワーがすごい。観客は泣き叫ぶ勢いでペンライトを振っている。曲のサビらしいところでは、盆踊り以上に全員のフリが合っている。 大型スクリーンに映るウインクひとつ、もしくはサングラスを少しずらして意味ありげな視線を送るだけで、きゃぁぁぁぁ!!!という歓声が上がる。 知らない世界を覗いてしまった…、手塚に関わらなければ一生見なかったアイドルライブに釘付けになっていたことに気づき、見るのはそこじゃなかったともう一度手塚の動きに目線を戻す。それにしてもよく踊る。ダンスについては詳しくないが、これだけハードに踊ってしっかり歌声を通すのは余程のトレーンングが必要だろう。 サービススマイルをファンに送る手塚を見て、あんなに覇気のない人間と同一人物だとは思えないなと、また次の動画を再生してしまった。 今日の海での姿を見ていなければ、双子説まで疑ったことだろう。 流れた曲はアイドル調で、メンバーは肩や腕を組んで、じゃれあいながら歌っている。ダンスナンバーがあったり、バラードやポップスがあったり、曲と演出の振り幅に、なんでもありか!とツッコミたくなるが、同時に芸達者だなとも思う。 さっきまでクールな表情でカッコつけて踊っていた手塚が満面の笑みを見せている。そのまま走ってくると、メインボーカルの男に後ろから抱きつき、耳の端にちゅっと唇をつけた。またしても、きゃぁぁぁぁ!!!!!という特大の叫声が上がった。 いろんな演出があるものだ…と、思いながら、麻生はそこでスマホを閉じた。 その日、麻生が眠るまで襖がノックされることはなかった。
/199ページ

最初のコメントを投稿しよう!

664人が本棚に入れています
本棚に追加