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朝も十時になって、ガラガラと引き戸を開け帰ってきた手塚に、つい苛立った声をかけてしまった。
「朝帰り?お前、何時だと思ってんの?」
ダンスや歌は真面目にやっても、演技に対してはまるでやる気がない。受けた仕事に本気になれないなら、もうやめてしまえ!と乱暴に、さらに心の中で罵った。
麻生は朝起きても手塚の姿がないことに気づき、一人で東京に帰ってしまったのではないかと心配になった。
もう一度部屋を確認すると荷物が置いたままで、あいつは何をやっているんだとふつふつと怒りが湧いてきた。玄関から近いダイニングでコーヒーを飲みながら帰ってくるのを待ち構えていたが、一向に帰ってこない。
これからロケが始まるというのに、地元の女性を引っ掛けたりしたら大変なことになる。そんなにあいつはバカなのか!?時間が経つにつれあらゆる可能性を考え始め、イライラは募る一方だ。
携帯の番号は知っているから連絡をとることもできるが、帰ってこないからには理由があるのだろう。根競べのような気持ちで手塚を待った。
そして今、気の抜けるような冷めた顔で当の本人がこちらを見ている。
「あー、昨日は結構早い時間に帰りましたよ。この島なんにもなくて、行くとこないし。朝起きてから、また出たんですよ」
抑揚のない手塚の声を聞いて、自分の方がバカに思えてきた。ここにくるまでの自分の様々な勘違いを思い返して恥ずかしくなったが、引っ込みのつかない怒りを手塚に向けた。
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