01 オーバーチュア / 麻生聖side

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ーー 役者ができなくてもやっぱり映画からは離れたくない。前に進むんだ。お前はいつまで同じところでくすぶってる? ーー 今が今を変える時だ。ここで引いたら、チャンスなんて二度とやってこない。 ーー 自分はどれだけの人間だ?仕事を選べる立場か? 『俺にやらせてください』  同じテレビ局のガラス張りのカフェテリアで秀野に頭を下げた。 ーー そう、自分で決めたんだ。どんな仕事でもやってやると。万人受けする人気俳優にへつらうことなんて、なんてことない。  気持ちを切り替え、目の前にいる手塚に一気に吐き出すように言葉をつなげた。 「今回の撮影の方言指導と滞在のアテンドをする麻生聖です。本読みの時にも会ってるけど、手塚くん、多分俺の名前覚えてないでしょ。秀野さんとマネージャーの木原さんからだいたいのことは聞いてるよね。撮影チームが入る一週間後まで俺とふたりだから、遠慮なく何でも言って」  今回の映画では方言指導は男女ふたりで、それぞれの性別の台詞を担当した。脚本の方言の部分に修正を加えた後、全員分の台詞を録音して渡す。稽古やロケには大抵どちらかひとりが立会い、イントネーションを確認したり、監督や俳優の相談にのることもある。     
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