06 三日目→四日目 / 手塚佳純side

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「なーんで、本読みするって言ってんのにお前はいつもいないんだよ!あと四日しかないのに!」 今朝も麻生は玄関口が見えるダイニングで手塚を待ち構えていた。テーブルの上には『散歩』とだけ書いたメモ用紙が乗っかっている。 文句があるなら電話をかけてくればいいのに、自主性を尊重するとかで手塚の帰りをイライラしながら待っている。本当に面倒臭い男だなと思うけれど、手塚にはその面倒くささも面白がる余裕ができてきていた。 最初こそ、思考回路謎な感情の起伏が激しい男というイメージを持ったが、感情の機微に敏感な手塚には、数日一緒に過ごしただけで麻生がくそ真面目で単純なことがわかった。 思ったら、こう言う、行動する。プライドに反することは譲れない。主張がはっきりしていて、融通が効かないタイプだ。 足の怪我が原因で役者を続けられないこと、関係があるらしい秀野とうまく行ってないことを知ってしまえば、不安定な気持ちを察することもできて、それほど腹も立たなくなった。 毎日がうまくいかない時、問題がない時よりも些細なことで感情は揺れる。成人するまでの母親との暮らしで実感しているからこそ、手塚は他人に心を無責任に受け渡さない。だから麻生のことを年上なのに大人気ないとは思うけれど、俳優業も恋人も、本当に大切なんだろうなと思う。 あの引く手数多であろう秀野と付き合っているのだから、素直な時は余程可愛いのかなと不埒なことも考える。 それともあのオッサン、あちこち手出してんのか?噂は聞かないけど…と一瞬疑い、やはり秀野も麻生のことを少なからず、いや相当思っているんだろうと思い直す。この映画は、麻生が主役を演じるために書かれているんだから。 ーー ほーんと、勘弁して欲しいなー。俺って一番損な役回りじゃん。秀野ほどの人気俳優となると、痴話喧嘩の規模がでかいわ。 キャリアの転機となり得る仕事で、私的なことで多大に迷惑をかけられているのだから、二人に遠慮する必要などないな、というのが手塚の結論だ。
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