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第一章 封書
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「森くーん、ちょっといい?」
そんな声に、森久則は没頭していた編集作業から目を上げた。出入り口には編集長の藤原東吾が咥え煙草で微笑んでいる。
「はぁーい、今行きます」
広げていた資料を閉じ、編集していた記事を保存して立ち上がると森は隣に座っていた同僚である佐川修一に、
「ちょっと出てくるわ」
と声を掛けて出入り口へ向かった。
森の勤めているこのFUKASAWA出版では、このように編集長に呼び出しをくらうことがままあった。それがどれだけ期限の迫った重大記事を編集しているときだろうがなんだろうがお構いなしである。社員も社員でそれほど気にしないのは、編集長のこの呼び出しというのが次のおいしい記事へとつながるネタ話であることが多いからだ。小さな出版社なので何冊かの雑誌や文庫本を複数のチームが手がけているのだが、それなりの仕事をすれば編集長からこうして「御褒美」をいただけるわけである。
「森君、君さぁ…」
最近禁煙を始めた森にとって、自分の肩を抱いて歩き出した藤原の煙草臭さは少し気になるところである。が、「御褒美」をいただけるのなら少しぐらい我慢するのが当然と、
「なんでしょう?」
笑顔で聞き返した。
「この前の現代スクープのすっぱ抜き、森君が目ぇつけたんだって?」
「えぇ、まぁ……前から気になってたもので」
「よかったよ、評判。随分練ったんじゃないの?」
「時間がありましたから……」
そんな会話をしながら藤原の向かった先は明るい日差しの差すロビーでなく、最近では滅多に使うことの無くなった会議室だった。
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