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今日はハロウィン。
ハロウィンって、そもそも子供がお菓子くれとか言って、人の家を練り歩く行事じゃなかったっけ?
大の大人達が仮装して、街中を平気で歩く姿を冷ややかに見つめながら、今日も俺は行き慣れた店へと1人向かう。
ぽんぽこ御殿。そこが俺の目下行きつけの溜まり場である。
お世辞にも洒落てるとは言い難いおネエスナックぽんぽこ御殿のドアをいつものように開けると、そこに菜摘ママの姿はなかった。
ーーいや、嘘だ。
本当はいつもより、額と手に脂汗を滲ませながらドアを開けたんだ。
「あら陣内ちゃん、いらっしゃい」
恭子ちゃんが、いつもママが定位置として立っている場所から、中へと入ってきた俺に笑いかけてくれた。
今日の彼女は、紫の着物にオレンジの帯というハロウィン柄の着物に、カボチャの飾りのついたかんざしをさしていた。
着物地にはコウモリ柄、帯にはパンプキンお化け柄と、ハロウィンらしい姿だ。
エレナちゃんとヴィヴィアンナちゃんの姿はまだ見えない。
「ママは?」
俺はカウンター奥の席に座りながら、氷を削っている恭子ちゃんに尋ねた。
「ママなら、外で営業活動という名の罰ゲーム中よ」
「へぇ……そうなんだ」
ぽんぽこメンバーを前にして、今更特に驚く内容でもないので、俺はさらっと受け流した。
っていうか、秘かにホッと胸を撫で下ろす。
今日はぽんぽこ御殿のハロウィンパーティーの日。常連客には全員通達しているとのことだ。
下の名前くらいしか知らないものの、お互い顔馴染みだというような人も何人か来ていて既に飲み始めている。
しかも、ちゃんと仮装までして……。
「あら?そう言えば陣内ちゃん、全然仮装してないじゃない。確か陣内ちゃんはドラキュラ伯爵ってママがリクエスト出してたでしょう?」
恭子ちゃんの言葉に、俺は苦虫を潰したような顔でもって返事した。
「あのね、恭子ちゃん……俺、流石に全身仮装はムリだから」
っていうか、部分仮装も受け付けておりませんけど。
仮装している他の皆々様を前にして言う台詞でないことも、重々承知のすけだし。
「んもう。ムリだのアイムストレートだの、陣内ちゃんたらそれしか決め台詞ない訳ぇ?」
……いや、恭子ちゃん。別にムリもアイムストレートという言葉も決め台詞な訳じゃないよ。
単なる心の叫びです。
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