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翌日、みんなリフレッシュした顔で出社した。トラブルは幸いにして昨日完全復旧し、銀行やら関係省庁、マスコミへの手配も終了、あとは各部署が細かい処理をするだけになっていた。
まぁ、いつものことながら、終わってしまえばやれやれなのだが、やはり谷さんのことが気になる。多分これは私自身が年齢的に、全くの他人事とは思えないからなのかもしれない。機械屋や生産現場に比べ、IT系の黄昏が恵まれていないような気がするのは私だけだろうか。
朝一の連絡などが落ち着いた頃、部長から今すぐ一緒にミーティングルームに行こう、と連絡が入った。これは珍しい、つまりはただことならぬ要件だと想像がついた。案の定、幾つかに分けられた小部屋の一つに入ると、先日初めて直接話をした上席役員が数名の部下を連れて後から入ってきた。
とりあえず、先日の一件の苦労をねぎらった後、
「あれから、言い方は不謹慎だが面白い話になってね」
と切り出した。
会社も今回の事件を重く見たが、すでに退職した谷さんには、退社時に登録された住所では連絡が取れず、古い資料から実家まで辿ったらしい。
「するとだね...」
役員は一拍置いた。
「十日ほど前に谷川さんは自殺されたそうだ。」
今回のトラブルに絡んで? いや、自殺が先だ。
「理由はわからないそうだが、発作的らしい。」
役員は、さらに意外な展開を話し出した。
谷川さんは、ずっと以前から、もし自分に何かあったら、実家にあるパソコンの全てを初期化してから廃棄して欲しいと親族に告げていて、そのための恐らくはログインパスワードと思われるメモも預かっているそうだった。
ただ、あいにく親族にパソコンの扱いに長けた者はおらず、せいぜい電源を入れてログインできる程度で、とてもでは無いが初期化などはできないので困っているとのことだった。そこですかさず電話口の当社の誰かが、それはお困りでしょう、なんなら我々が責任を持って処理させていただきます、と持ちかけ、親族は大喜びで快諾した、という顛末だった。
いや、それは谷川さんが最も避けたかったあらすじでは無いのか、と思ったが、おかげで会社にとってはもちろん、私自身の好奇心を満たしてくれることとなる。確かに不謹慎ながら、ちょっとワクワクする展開になったことは認めよう。
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