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 群馬まで出向くのは私ということになったそうで、まぁそれはここに呼び出された時点で予感はしていた。パソコンをそのまま持ち帰れるかもしれないので、社用車を借り出し、運転手に植木を呼び出して昼前には関越道に乗れた。 「でも、自殺するならPCの初期化なんてあらかじめ済ませておきませんかね?」 そう植木は切り出した。確かにその通りだ。事故死ならともかく、谷さんほどのベテランだ、もし後ろめたいことをしていたなら、事前にそのあたりの細々を綺麗さっぱり消し去ってしまうのが自然だ。 「だからそれすらできなかったとか、したくなかったとかあったのかもな」 可能性はいろいろある。 「南の島と台風停電って推理も外れましたね。」  ああ、そのとおりだ。南の島で隠居生活どころか、海のない群馬での実家暮らしだったとは。 沖縄あたりに台風が来たときにシステムに不備が出たのは、台風がらみの警報が出たら、それを引き金に不調を起こすようにランダムに仕組んであったのだろう。 「俺の願望が入ってたのかな」  私は、事実少しがっかりしていた。死ぬまでとは言わないまでも、数年くらい南の島で何も考えずに暮らしてみたいものだ。あまりに平和すぎてすぐにボケてしまいそうだが。   「この辺りですね」  たまたまこの日はどんよりした空模様であったせいもあって、いかにもさびれた地方商店街から入った住宅地は、南の島などほど遠い陰鬱な風景に見えた。幸いすぐに実家が見つかり、谷さんの実の兄が待っていた。  こちらとしては一刻も早くマシンを回収したいのだが、そういうわけにも行かず、通された座敷でまずは遺影に手を合わせ、兄の話を聞くことになった。  退職してから数年、都内の部屋を引き払ってからはずっとこの実家の二階で暮らしていたそうで、介護資金を送金していた両親もすでになくなり、以来一人だったそうだ。ただ、この兄を始め親戚筋が近所に住んでいるので時々様子を見に寄ったりしていたが、特に変わった様子もなく、静かに一人暮らしを楽しんでいたらしい。だから自殺の理由は全く分からず、遺書も見つかっていないそうだ。 「もらったメモ通りパソコンを開いてみたんだけんど、素人にはさっぱり分からなくて、困ってたところだったんだぃね。」  そう兄は言って、メモを見せてくれた。
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