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少し離れたとろこで様子を見ている谷さんの兄にばれると面倒なので、
「音は消してな」
と伝えた。
すると新作っぽい洋画の再生が始まった。数えると、他にギガ単位のファイルが十数本保存してある。恐らく海外からコピーしてきたのだろう。
「谷さんは映画が趣味だったんでしょうか?」
実兄に確認してみた。
「いや、趣味というか、暇なんでぇ、とは言ってたん。」
逆に作業の進み具合はどうか、と訊かれたので植木を見ると、自分のスマートフォンをいじっている。
「なんだ、どうした?」
「今、シャットダウン指示をしたIPアドレス調べて見たんですが、どうやら海外の航空会社のものらしいです。」
「航空会社?」
航空会社関連のサーバーから映画を盗むということは?と私は考えて、ふとフライト中に機内で上映する映画のことを思いついた。最近は機内からインターネットに接続できるので、機内のエンタテイメント系コンテンツもネット転送していることは十分考えられる。そこに谷さんは忍び込み、最新の映画を吸い出していたのかもしれない。
そこで私ははっとした。
「おい、その日付はいつになってる?」
「えっと、十日ほど前...ですね。」
念のため、お兄さんに確認すると、命日の前日だという。
そしてその日は、南太平洋で旅客機が謎の墜落をした日と重なる。もし、もしそうだったら... 私は自分の想像があまりに恐ろしくて、まるで我が仕業であるかのように足が震えて来た。もしそうなら、初期化して廃棄なんてとんでもない。
「お兄さん、すいませんが、ちょっと我々の手でもこのマシンは手強くて、やっぱり一度会社に持って帰らせてもらって、詳しいものに処理させます。」
唐突ではあったが、興奮のあまりうまい話の持って行き方など思いつかなかった。
兄は、それでは故人との約束と違う、と明らかに不満げだったが、まだ個人的な推測だけに、詳細を言って説得するわけにもいかない。植木すら突然の成り行きに驚いていたが、さっさと電源を落とさせて、まるで盗み出すかのように車に積み込んだ。
全く納得がゆかない表情を隠さない兄への挨拶もそこそこに、急いで植木に車を出させた。
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