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まだ遠く南の海にある台風のおかげで、その日は朝から本当に暑かった。月曜の朝一番、まだエアコンの効きが完全で無い中でかかってきた電話が我々の地獄の始まりだった。
電話に出た部下の態度が硬直するにつれ、周囲にもただ事ならぬ雰囲気が広がり、やがて当社がずっと昔から扱っている銀行間取引システムが動いていないことがわかった。
私は技術担当の現場責任者として、問題が起きた時には確実に問題を把握し、原因追求のための指示を行わねばならない。ただ、そのためにはまだ情報が不足しすぎていた。最初のうちはメールで各部から問い合わせや報告が来ていたが、そのうち我先にレスポンスが得たいと電話になり、十時にもなっていないのにすでに部署の処理能力は飽和状態を迎えていた。
一方で皆、なぜこのシステムが今頃?という疑問も感じていた。このシステムは、ずっと昔に開発が終了し、拡張も行われていない代わりに、安定しきっていたからだ。その点こそが金融機関のような、確実性を何より重視するクライアントには好評だったのだ。
もっとも、さすがにもうそろそろ終わりにしよう、という空気もこの十年くらいの間に確定し、専従のプログラマやSEが退職しても補充しないことになっていた。もちろん、担当者がいないわけでもないが、彼らの本業はもっとモダンなシステムであり、週明けに出社していきなりでは何が何だかわからないと言うのが本音だろう。
そうした焦燥と疲労感の中、私はある男のことを思い出していた。
谷さん。
今トラブルが起きているシステムに関してのボス的存在だった男だ。と呼べば格好良いが、会社ではすでに不要の烙印を押され、結構あからさまな嫌がらせを受けていたベテランだ。
この業界、歳を取ると頭はともかく手が動かなくなり、現場のスピードについてゆけなくなるのが宿命となっている。それでもかつては40歳限界説だの、35歳だのとまだゆったりしていたのが、最近はもう30だという冗談とも本気ともわからない説が主流となっている。
だから私のように、技術営業として一時期外に出されるのを我慢するなりすれば、管理職という逃げ道もあるのだが、運悪く最前線にそのまま残されると、正直悲惨な仕打ちが待っている。
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