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 想像とはいえ、あまりのスケールの大きさに二人とも心臓がばくばくし、無事に会社まで帰れるかが心配になるほどだったが、とにかく会社に到着し、車中からあらかじめ報告した上司の命令で、極秘のチームが結成された。行き掛かり上というか、第一発見者的な存在だけに私と植木もメンバーに入ったが、その他のメンバーは、普段会社ではお目にかからないような存在の社員ばかりで、それだけことの大きさを会社は嗅ぎ取っていたのだろう。    数日かけた結果は、残念ながらほぼ想像通りの証拠が出て来た。  時々沖縄あたりに台風が来たら不調になる銀行間決済システムは、谷さんが自分の存在価値を確固とするための仕業だったが、サーバー会社のセキュリティレベルが上がってしまい、退職時に解除できなくなっていた。仕方がないので、谷さんのマシンが応答する限りはトラブルを起こさないようにしてたのが、彼の自殺により電源が落とされ(恐らくパソコンに無知な親族が、コンセントを抜くなりして強制的にオフにしたのだろう)、トラブルが起きてしまった。  航空機墜落についてもほぼほぼ想像通りだったが、そこまでで私と植木は厳しい守秘誓約書にサインを求められた上でチームから外された。  それからいくら経っても、航空機墜落についての詳細が公表されることはなかった。  それはそうだろう、まさか飛行中の旅客機のシステムに侵入できて、簡単に制御不能に追い込めるなんてことが公表されたら、世界は大混乱だ。  元々の銀行間決済システムについては、昔のこととはいえ、谷さんに簡単に侵入を許した責任もあるということで、我が社とサーバー会社と折半で賠償することが決まったらしい。こちらも銀行を含んだ信用不安に繋がるということで、詳細は公表されなかった。  谷さんやその遺族に対し、どういう責任追及が成されたかも、チームから外されてからは一切情報がなかった。    そうして我々にはもう何もすることがなくなってから、植木と二人で飲みに行った。  話題は一連の事件しかないのだが、純粋な技術論でいうと、銀行決済や、航空会社のシステムにまで自由に侵入できた谷さんの力は認めざるを得なかった。  「にもかかわらずですね。」  酔ったのか、植木が少しイライラした様子で切り出した。  「社内では不用品扱いになったんですよね。」  まぁそうだ、その通りだ。
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