第55回 八卦見(はっけみ) 別式女(べっしきめ)

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第55回 八卦見(はっけみ) 別式女(べっしきめ)

『御町見役 うずら伝右衛門』(東郷隆) ▽あらすじ  時は、質素倹約を旨として享保の改革を推し進める8代将軍・徳川吉宗の治世。その吉宗の政策を真っ向から批判しているのが、御三家筆頭の尾張藩主・徳川宗春(むねはる)だ。吉宗は、同じ御三家の紀州藩から将軍職に就いたのだが、紀州、尾張両藩には将軍職をめぐって長期にわたる確執があった。  吉宗、宗春の対立が火を噴こうとしていたまさにその時期、尾張藩の軽輩武士が品川の海で釣り糸を垂れていた。名は志摩(しま)銀之丞(ぎんのじょう)。志摩家は、藩主の御側(おそば)に仕える足軽衆だが、「御秘御用(おんぴごよう)」といって、藩主の耳目となって働く役目である。銀之丞は、養子として志摩家の人となった。  秘中の秘である役目を負っているはずの銀之丞、はなはだ太平楽な武士である。品川宿の八卦見・お幸のねぐらに転がり込み、昼日中からじゃれ合っているのだ。 【「もう九ツ半(午後一時)か。どうりで腹が空いた」 「着いて早々、餅(もち)ひとつ搗(つ)いたというのに」  お幸は自分で言っておいて、頬を赤くした。餅搗きは、品川女郎の隠語で「後どり」後背位のことだ。     
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