イサクと平面的動画群

本編

男の家には子供がいる。彼の実子だろうか。これまでの動画からは子供がいることはもちろん、結婚していることさえわからなかった。部屋にはそれを匂わせるものは１つたりとなかったし、それをほのめかす発言もなかった。なぜこの動画を調査するよう命じられたのか。そのヒントがここにあるのかもしれない。ついに調査対象となる動画は残るひとつとなった。身体が震えている。気のせいかもしれない。意を決し、動画を再生する。この動画も男が映っていなかった。が、すぐに男の怒号が響く。すこぶる機嫌が悪い。画面に現れた男は黄色い顔をしていて、目はいつにも増して充血している。アルコールに心身をやられてしまっている。そう思った。男は「シンゴ」と連呼していた。ーーあの子供のことか。彼はシンゴというのか。どこかで聞いた名前である。ありきたりな名前だと言えばそうだが、どこか懐かしい響きを感じた。その懐かしさの根源を探り当てる前に、ことは起きた。男が画面の上方、正確に言えば、カメラがあるその向こう側を睨んだ。目がかっと開かれる。怒号とともに腕を突き出した。男が何かを掴み、カメラの正面に引きずり出した。