本編

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私の主な仕事はyoutubeを観ることである。それからgoogle earth。今、私はかつて『ミュージアム』と呼ばれた場所を模した、白く天井の高いホールの、ある壁に正対していた。ミュージアムは「美術品を広く大衆に魅せる」という役目を果たし、とうの昔に廃れていた。現実世界に残っているのは、パリの『ルーヴル』とトウキョウのロッポンギにある『モリ』のみだった。それまで世界各地に存在していた美術品たちは、嫌になるほど3Dスキャンを施され、ミュージアムの跡地に建てられた倉庫で眠りについている。彼らを眠りから覚ます者は、美術に携わる研究者。そして、今では少数となった所有欲の強い、物好きな金持ちだけだった。もっとも、半世紀前まではこんな状況になるとは誰も思ってはいなかった。「美術品は目の前の実物を通してのみ、その美しさを感じられる」。多くの人々はその考えを普遍のものと考えていた。しかし、ヴァーチャル・リアリティがその“リアリティ”を強固なものとしていく中で、少しずつその考えは駆逐されていった。
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