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私が立っているこの空間もヴィアル内の文化財閲覧スペースである。ここでは今やデッドメディアと化した“平面的動画”を鑑賞することができた。眼前の壁には大きな額縁がかけられている。その枠の中で、1人の子供が川辺を走っていた。黄色の半ズボンの少年が、笑い声をあげながら、画面の奥の方へ逃げていく。この動画を撮影しているのが、この少年の親なのだろう。少年と撮影者の距離は一定の長さを保ったまま、風景がこちら側に流れていく。いつまでこの他愛のない退屈な動画が続くのだろうと思った瞬間、少年が派手に転んだ。撮影者の「まあ、大変!」という声とともに、視点が斜め下に振れて、動画は終わった。なぜ、この動画を観てしまったのかはわからない。そもそも私が観なければならないのは、2017年頃のジャパン、それもフクオカの一地域で撮影された動画に限られていて、アメリカのオレゴンで撮影されたこの動画ではない。
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