本編

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あくびを堪えて、仕事の対象となる動画一覧を眺め始めた。ある1つの動画の解説を読む。2017年6月15日投稿。ログによればフクオカ・シティの東側に存在したとある地域で撮影されたものらしい。再生するようシグナルを送る。まず動画は少年の顔のアップで始まった。少年は自分が、当時流行っていた“youtuber”であることを告げた。風のせいで音が聴きづらい。水の底から外の音を聴いているようだ。彼はその地域のランドマークを紹介するらしい。視点が右に振れると、頭でっかちの四角い塔が映し出された。小高い丘の上にあるようで、一際高いその塔からは凄まじい威圧感を覚える。色は彩度の低い茶色で、錆びて朽ちたビルのようにも見えた。曇り空と相まって不気味な印象を感じる。「こえー」少年が言った。少年の感想などに関心はない。また少年が語る内容に有益な情報など1つもない。必要なのは、画面に映る風景のみである。人間にあまり興味はない。唐突に動画が終わった。この場所は以前、他の動画で調査済みだった。新しいアングルが得られればと思っていたが、画質が悪かったこと、手振れが酷かったことで諦めざるを得なかった。
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