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調査対象に該当する次の動画を観ようとしたとき、上司から連絡が入った。
「どうだ。新しいアングルは手に入りそうか?」
「なかなか難しいですね。もはや新素材は手に入らないかと」
上司のため息が聞こえた。ため息をつきたいのはこちらの方だった。
「調査は切り上げて、オブジェクトの補完作業に入るか?」
その方がプロジェクトのためには良いかもしれない。しかし、私はこの空間にいるのが心地よかったし、まだいくつかの動画を眺めてみたかった。
「もう少し調査をさせてください」
「そうか」
ラインを切りかけたとき、上司が何かを思い出した。
「そうだ、検察から依頼が来ている。これから指定する座標の動画を重点的に調査してくれ」
「検察からですか? 珍しいですね」
「詳しいことは聞かされてない。その座標の空間の3Dモデルを構築してほしいらしい。それ以外はわからん」
「わかりました」
「では」
今度は私があることを思い出して、尋ねる。
「なぜ子供はこうも苛だたしいものなんですかね」
上司は言葉に詰まった。彼は2人の子供を持っている。しかも相当溺愛しているらしい。証拠にアイコンはその子供たちの写真だった。こんなことを聞くべきではなかった、と思っていると案の定、
「そんなこと俺に訊くな。そして考えるな」
と言って一方的にオフラインになった。上司を怒らせることに対しては、何の罪悪感もなかったが、彼の不機嫌でこの空間から引き揚げさせられることにならないかと案じたが、杞憂だった。
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