本編

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ほどなくして、座標とそれに対応する動画の一覧が送られてくる。一瞥して驚いた。その座標が示していたのは、民家の内部だった。私たちが調査するのはオープンスペースに限られていた。学術的な意義と老人たちの懐古趣味のために、過去の動画や写真を解析し、ヴィアル上で展開するための、今は亡き風景の3Dモデルを構築すること。それが我が会社の仕事である。同時期、同座標で投稿された膨大な動画を比較し、デジタル上で3Dの空間をモデリングする。アングルの関係で影になっている部分は、他の動画や写真から類推し、オブジェクトを補完する。こうして過去に存在した空間と99%同じデジタル空間を構築する。ヴィアルにアクセスした人々は、そうして作られたヴァーチャル・リアリティの“過去の世界”を闊歩することができる。居住空間などのパーソナルな場所や機密性の高い場所の構築が依頼されることは少ない。そもそも、そういう場所は3Dモデルを構築できるほどの動画がアップロードされていないし、あったとしても断片的な情報ばかりで、制作者の偏見と乏しい知識によって補完された、紛い物の空間にしかならない。だから、誰も依頼してこないのだ。
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