マリアの慟哭

5/5
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
なんともない。 さっきのは杞憂だったかな。 俺の勘だってけっこう外れる。今回は外れてよかった。 「退屈だなあ。守、面白い話してよ」 「えええ……無茶振りもひどくない……?」 「さっきみたいな話、ききたい。ジャックの記憶とか話せよ」 うーん、と俺は首をひねる。 「けっこう断片的なんだよね……まずさぁ、俺、ジャックが死んだときの記憶、持ってないんだ」 ギラギラした目で町を歩くジャック。人に向かってナイフを振り上げるジャック。殺人知識。そして、激しい感情。俺が憶えているのはそれくらいだ。 「死んだときの記憶かあ。持ってなくてよかったんじゃないの。覚えてると、情緒不安定になりやすいって言うし」 「斗桐は?」 「僕も憶えて……ないんだよね……というか、ほとんど……」 かくん、と斗桐の頭が下を向いた。 「斗桐……?」 下から覗き込むと、くぅくぅと斗桐が寝息を立てていた。 「なんで、突然……?まさか、紅茶にクスリが……んんっ!?!?」 知らない間に扉が開いていて。 後ろから白くて綺麗な腕が伸びてきて。 そして俺は完全に拘束されたのだった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!