マリアの慟哭

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「あのさ、それよくレイプした相手に言えるね?君はただのくだらない人間だよ。ちょっとばかし偉人の記憶を持った」 何故か……斗桐はふわりと、嬉しそうに笑った。 「そうなんだ。そうなんだよ。僕は……」 体が硬直したように、動けない。斗桐の手が、俺に向かって、伸びる。 ああ、斗桐がまた、俺を、犯そうと―― 「き み が  ほ し い」 これは――斗桐の狂った目が俺を見つめる、これは―― 知っている。ジャックと同じ、心から何かを――崇拝する、目だ。 「やめて……いやだよ、斗桐……」 恐怖に震える身体に反して、脳がうっとりと斗桐を見つめる。 この、くだらなくない、衝動。 全身をしびれさせる、感情。 その美しさを、俺は知ってしまっているから。 「抵抗しないじゃないか。君もこうされたいんだろ?」 「違う……いやだ、その感情を、俺に、向けるな……!」 逆らえない。その激しさに、屈服してしまう。 ちくしょう、ほんとうに、何が天使だ……!正真正銘の殺人鬼と、同じ衝動を持ってるくせに……! 「私の天使ちゃん、帰ってきてたの?」 女性の声に、はっと斗桐が我に返る。 「マリア、ただいま。今日は友達を連れてきたんだ」 マリア――ということは、斗桐を処女懐胎で生んだ人か。 生まれ変わりの場合、生みの親が転生者を育てないことも多々ある。生みの親が忙しい科学者である場合だ。とは言え、生まれ変わり後のケアでちょくちょく会うことになるので、育ての母親と区別するために、生みの親をマリア、育ての親をママなどと呼ぶことが通例だ。 俺にも育ての母親がいる。中学生まで育った孤児院の職員のことだけど……。 「まあ!それは素敵ね。おいしいお菓子を貰ったところなの。守ちゃん、天使ちゃんのお部屋で、どうぞお待ちになって?」 斗桐のマリアは、それこそ天使と形容したくなるような、愛らしい美女だった。 ふわふわの金髪、アクアマリンの瞳。どこか幼さを残した整った顔立ちに、すらりとした肢体。 どうやら斗桐の容姿は、マリアゆずりらしい。 「美人なお母さんだね」 「また新しい魂を転生させるために、処女でいなきゃいけないから、ヤれないよ?」 「……っ!そういうこと言ってるんじゃないってば!!」 「どうだか」 マリアが立ち去ると、すぐ斗桐は天使の擬態をとくのだった……。
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